第80号

公益通報者保護法の2025年改正 ~通報者保護の強化など~

POINT

  1. 通報者保護のために、公益通報を理由として解雇・懲戒を行うことに対し刑事罰が新設されました。事業者・労働者間の民事紛争でも、通報後1年以内の解雇・懲戒は公益通報を理由として行われたと推定されることになりました。
  2. 特に、事業者(従業員数300人超)については、公益通報対応業務従事者の指定などの体制整備の義務が一層強化されました。従事者指定義務違反について刑事罰が新設されました。
  3. そのほかに、公益通報をしない旨の合意の禁止、通報者探索の禁止、通報者の範囲にフリーランスを追加する等の改正がされました。

1 はじめに

 公益通報者保護法は、事業者等の不正行為 (国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律に違反する犯罪行為等) の発生と被害の防止を図る観点から、公益のために通報した労働者、役員等 (公益通報者) が、通報を理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることがないように保護する法律です。

 特に、常時使用する労働者が300人超の事業者には、公益通報対応業務を行う体制を整備する法的義務が課されています。公益通報者対応業務従事者1(以下 「従事者」) には守秘義務があり、違反には刑事罰が定められています。

 そこで、2025年6月に公益通報者保護法が改正され、2026年中に施行されることになりました。

 企業において、公益通報(公益通報者保護法の要件を満たす通報) や内部通報 (同法の要件を満たすかどうかにかかわらず、違法行為・不正行為・ハラスメント等の早期発見・是正のための通報) を受け付ける通報・相談窓口を設置し、既に一定の取り組みをされている場合にも、今回の法改正を受けて、さらなる取り組みが必要になる可能性があります。

 今回の改正項目は、体制整備の法的義務(労働者300人超)がある事業者にあたらない事業者にも、大きな影響があります。すべての事業者は、通報に対応する場合や解雇・懲戒等を行う場合には、公益通報者保護法に違反することがないよう、十分に注意をする必要があります。

2 通報を理由とする解雇・懲戒に対する刑事罰

 公益通報を理由とする解雇または懲戒を行った場合、意思決定に関与した個人には 6 か月以下の拘禁刑または 30 万円以下の罰金、事業者には 3000 万円以下の罰金が科されるようになりました。

 なお、不利益な配置転換や嫌がらせ等の行為(解雇・懲戒以外の行為)に対しては、通報との因果関係の立証の困難さ、構成要件の明確性の問題(配置転換や嫌がらせの定義、範囲を明確に定めることの困難性)、事業者の人事・労務管理への支障を考慮し、刑事罰の対象とすることは見送られ、今後の検討課題となっています。

3 解雇・懲戒が通報を理由としてなされたことの推定規定(立証責任転換)

 従来、不利益な取扱いを受けた通報者と事業者との紛争(労働者と企業との民事紛争)において、通報者の側で、その不利益な取扱いが公益通報を理由とするものであることを立証する必要がありました。しかし、必要な情報や証拠が事業者側に偏在しているために通報者側での立証が困難という状況が多くみられました。

 そこで、通報者と事業者との民事紛争において、公益通報後1年以内の解雇または懲戒については「公益通報を理由としてなされたものと推定」されるとの規定が新設されました。これにより、不利益な取扱いが、通報を理由とすることを立証しなければならなかった通報者側の負担が軽減されます。

 他方、事業者としては、解雇・懲戒の効力が争われた場合、解雇・懲戒が公益通報を理由としたものではなかったことを、証拠によって自ら証明する必要があります。そのため、解雇・懲戒(戒告その他の比較的軽い懲戒処分も含みます。)を行うにあたっては、根拠となる資料を準備して残しておく実務運用が、極めて重要になります。

4 通報者保護に関するそのほかの改正項目

⑴ 通報者探索の禁止

 通報者が特定されることへの懸念が通報をためらう大きな要因となっていた現状を踏まえ、通報者が安心して制度を利用できる環境を整備することを目的として、正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為(通報者探し)が禁止されることが、法律上、明文で定められました。

⑵ 公益通報を妨害する行為の禁止

 正当な理由なく、通報しない旨の合意を求めたり、通報した場合に不利益な取扱いをすることを告げたりする行為などが禁止されました。これらに違反する合意は無効となります。

5 事業者(労働者300人超)を対象とする体制整備義務の強化

⑴ 従事者指定義務の強化、刑事罰の新設

 現行法では、従事者の守秘義務違反には刑事罰が設けられていた一方で、事業者の従事者指定義務違反には刑事罰がなく、事業者側の義務履行を促す仕組みが不十分とされていました。そのため、従事者指定義務に違反した場合の対応が強化されました。

事業者が従事者を設置しない場合、現行法では、国の権限は、助言・指導、勧告、公表でしたが、改正法では、これに加えて、立入検査権、勧告に従わない場合の命令権と、これらについての違反に対する刑事罰が新設されました。

⑵ 周知義務

 公益通報者が不利益を被る懸念なく、安心して不正行為を通報できる環境を整備することを目的として、事業者が労働者等に対して通報窓口その他公益通報対応体制を周知する義務が、法律に明記されました。

6 公益通報者の範囲拡大

 公益通報の主体となることができる者(現行法では、労働者、派遣労働者、1年以内の退職者、役員、取引先事業者の労働者等)の範囲に、特定受託業務従事者(フリーランス)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが新たに追加されました。

7 まとめ

 2025年改正の内容は、多岐にわたっています。 通報者保護の強化は、すべての事業者に大きな影響があります。また、労働者が300人超の事業者においては、従事者の指定、社内規程の見直しを含む体制整備義務の徹底や労働者への十分な周知等が必要です。 当事務所は、公益通報を含む内部通報に対応するための体制の整備へのサポートや、通報の外部窓口の受任等の業務を行っておりますので、ぜひご相談ください。


1 事業者が定めた、公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務に従事する者(公益通報保護法第11条1項)。 これまでにも事業者の体制整備が法的義務になる等の法改正(2022年以降)が行われてきましたが、それでも公益通報者が不利益を被る事例が少なくなく、また、事業者の体制整備義務の履行が不十分である等の問題がありました。

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