第85号

譲渡担保法の概要 ~譲渡担保に関するルールが明確になりました~

POINT

  1. 明文で定められていなかった譲渡担保権に関し、新たに「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(以下「譲渡担保法」といいます。)が定められ、法制度化が行われました。
  2. 今後、譲渡担保権等の設定契約の内容については、この譲渡担保法に則したものとする必要がありますので注意が必要です。

1 はじめに-譲渡担保法の制定とその背景-

 2025年5月30日、新たに譲渡担保法が成立しました。譲渡担保法は、同年6月6日に公布され、公布日から2年6カ月以内である2027年12月6日までに施行される予定です。

 譲渡担保権とは、下記2において詳述しますが、実務上、わが国で広く利用されてきた担保権です。しかしながら、これまでは、譲渡担保権について、民法等の法律による明文上の規律が存在せず、判例・学説による規律によって運用されてきました。法律による明文規定がないことにより、これら担保権の効力、設定、実行の各場面で解釈上の余地がある不明確な部分があり、法的安定性に欠ける面がありました。

 今般の譲渡担保法の制定は、このような不安定性を解消し、従来、主に用いられてきた不動産担保や個人保証のみに依存しない融資を促進することも目的とするものであり、譲渡担保権の効力、譲渡担保権の実行時のルール、破産手続におけるこれらの担保権の取扱いなどが定められています。 譲渡担保法の内容は多岐に及び、所有権留保に関しても定めれていますが、本書では、特に実務上重要と思われる譲渡担保権の内容や設定時の注意点について、2つの具体的なケースをもとに、できる限り平易に解説します。

2 譲渡担保権とは

 譲渡担保権とは、債務を担保するために、債務者または第三者の動産・債権といった特定の財産を債権者に譲渡し、債務不履行時には当該財産から優先的に債権回収を行うことができる担保権です。

 譲渡担保法においては、譲渡担保契約の対象は「動産、債権その他の一定の財産」(同2条1号)と広く定められており、譲渡担保権のうち、特定の動産(工場の機械設備等)を目的物とする譲渡担保権を動産譲渡担保権といいます(同2条6号)。

 また、譲渡担保権は、特定の動産・債権だけでなく、集合動産譲渡担保という形で、日々内容や数量が変動する在庫商品のような集合物を対象とすることも可能です。

3 ケース1-機械設備に担保を設定したい場合-

(1) 事案

 当社A(以下「A社」といいます。)の付き合いのある同業者B(以下「B社」といいます。)から、資金繰りに困っているとの相談がありました。

 話を聞くと、取引先から近いうちにまとまった額の売掛金を回収できる見込みであるものの、それまでの間に仕入先等に一定の支払いを行わないといけないため、一時的に運転資金が不足してしまうとのことです。長い付き合いですし、困ったときはお互い様なので、B社に500万円を貸し付けることにしましたが、やはり担保がなければ不安です。

 B社の所有する工場の土地建物には、既に銀行の抵当権が設定されていますし、B社の代表者個人も、B社の銀行借入れの連帯保証しており、自宅に担保も入っています。そこで、B社工場内にある古い機械bを担保としたいのですが、そのようなことは可能でしょうか?また、担保とするために具体的にどのような手続が必要になりますか?

(2) 解説

ア 動産譲渡担保権の設定

 譲渡担保法では、譲渡担保契約の目的として「動産」も含まれていますので(同2条1号)、B社工場内の機械bにつき、A社の500万円の貸金債権を担保するため動産譲渡担保権を設定することは可能です。

 具体的な手続としては、まず、500万円の金銭債務を担保する目的で、債務者であるB社の所有する動産(機械b)を債権者であるA社に譲渡することを内容とする契約(これを「動産譲渡担保権設定契約」といいます。)を締結します。

 動産譲渡担保権設定契約書には、概ね、被担保債務の内容・範囲(どの金銭債務を担保するのかの特定)、担保目的動産(ケース1でいえば機械bであることの特定・明記)、金銭債務を担保するため目的動産を譲渡する旨、対抗要件の具備の時期・方法(占有改定や動産譲渡登記)、担保権実行方法や清算に関する定め、目的物の維持・管理に関する定め等を記載する必要があります。

イ 債権者A社(動産譲渡担保権者)としての注意点

 動産譲渡担保権を設定した場合、形式上、目的動産である機械bは債務者B社から債権者A社に譲渡されることとなりますが、現実に機械bがA社に引き渡されることはありません。すなわち、動産譲渡担保権を設定しても、担保権設定者であるB社は、機械bを引き続き事業のため使用することができます(同29条1項)。

 仮に、被担保債務である500万円の貸付につき、B社が返済できなくなった場合、債権者A社(担保権者)は、目的動産である機械bを売却するなどして、他の債権者に先立って自己の債務の弁済を受ける権利を有することとなります(同3条)。

ウ 対抗要件のルール(譲渡担保権者同士の優先順位)における注意点

 譲渡担保法は、目的動産につき、重ねて譲渡担保契約の目的とすることができることを認めています(同7条)。ケース1でいえば、債務者B社は、機械bにつき、債権者A社のために動産譲渡担保を設定した後、また別の債権者X社のために、機械bにつき動産譲渡担保権を設定することが可能ということです。

 裏を返せば、債権者A社が機械bに動産譲渡担保権を設定する前に、B社が別の債権者Y社のために機械bにつき既に動産譲渡担保権を設定している可能性もあるということです。このため、譲渡担保法は、ある動産に複数の動産譲渡担保権が設定されている場合の各動産譲渡担保権の優先順位につき、次のようなルールを定めています。債権者A社としては、このルールを知らないと、機械bに動産譲渡担保権を設定したものの、B社の返済がなされかった場合、別の債権者が優先することが判明し、結果、機械bから優先して弁済を受けることができなかった、ということになりかねませんので、注意が必要です。

① 原則ルール-「引渡し」の先後-

 同一の動産に複数の譲渡担保権が設定された場合、その優劣は対抗要件を備えた時点の先後によって決定されます。ここでいう対抗要件は「引渡し」により備えられます(同32条)。

② 例外-占有改定劣後ルール-

 「引渡し」には、現実の引渡しだけではなく、占有改定も含まれます。占有改定とは、自らが占有している動産について、今後は特定の他人のために占有する意思を表示することで、物理的な移動を伴わずに占有の移転(引渡し)を行う方法です。

 前記の通り、多くの場合、動産譲渡担保権の設定後も、引き続き、債務者によって当該動産の使用が継続されることが想定されますので、「引渡し」は、現実の引渡しではなく、占有改定の方法によることが多いと考えられます。

 しかし、占有改定の場合、物理的な移動がなく、第三者にとって占有改定があったかどうか認識が困難です。そこで、譲渡担保法は、占有改定によって対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法(現実の引渡しや動産譲渡登記等)にて対抗要件を備えた動産譲渡担保権に劣後するというルールを定めています(同36条1項)。

③ 例外の例外-牽連性のある動産譲渡担保権-

 譲渡担保権を設定する目的動産の売買代金債務やその立替払による求償債務(これらを「牽連性のある金銭債務」といいます。)を被担保債務とする場合、その動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡を占有改定によって行ったとしても、占有改定の方法以外の方法で「引渡し」があったとみなされ、他の動産譲渡担保権者に優先することとなります(同条2項)。

 以上のようなルールがあるため、ケース1において、A社が機械bにつき譲渡担保権を設定する場合は、先に別の債権者が機械bに動産譲渡担保権を設定している可能性があることから、動産譲渡登記を確認する等により、優先する動産譲渡担保権者が存在するか否かを確認する必要があります。また、外部から分からない牽連性のある金銭債務を被担保債務とする動産譲渡担保権が存在しているか(機械bの売買代金の支払いが完了しているか等)も確認する必要があります。

 その上で、自らの対抗要件の具備についても、占有改定の方法ではなく、動産譲渡登記による方法を選択する方がより安全といえます。

4 ケース2-多数の在庫商品に担保を設定したい場合-

(1) 事案

 当社C(以下「C社」といいます。)は、日用品や雑貨の小売業を営んでいるのですが、近いうちに少し大きな支払いを行わないといけないため、その資金繰りに悩んでいます。取引銀行にも相談をしたのですが、追加の融資は難しいとのことで断られてしまいました。そこで、経営者仲間のD社に相談したところ、「300万円を貸しても良いが、何か担保を設定してほしい。」との回答がありました。担保として出せそうなものとしては、販売する商品の在庫しかないのですが、このような在庫商品を担保にすることができるでしょうか。また、担保を設定した場合、在庫商品を取り扱う上で何か注意することはありますか?

(2) 解説

 集合動産譲渡担保権の設定

 譲渡担保法においては、日々内容や数量が変動する在庫商品のような集合物を譲渡担保の対象とすることも可能とされていますので(同40条)、D社からの300万円の貸金債務を担保するためC社の在庫商品を一括して集合動産譲渡担保権の目的とすることが可能です。

 具体的な手続としては、動産譲渡担保権設定とおなじく、300万円の金銭債務を担保する目的で、債務者であるC社の在庫商品を債権者であるD社に譲渡することを内容とする契約(これを「集合動産譲渡担保権設定契約」といいます。)を締結します。

 ただし、前記3の動産譲渡担保権と異なり、C社の在庫商品は日々内容や数量が変動するものですから、集合動産譲渡担保権の設定契約においては、「動産の種類」及び「所在場所」等を指定して特定する必要があります(同40条)。具体的には、「C社の○○倉庫に現在又は今後搬入・保管される○○という種類の動産」、というような特定が必要となり、他方、「C社の在庫一切」という特定では不十分ということになります。

イ 集合動産譲渡担保権の設定者(債務者)としての注意点

 集合動産譲渡担保権についても、原則として設定者のC社が集合動産(特定された範囲の在庫商品)を日々処分(営業のために販売、製造のために使用)することができます(同42条1項)。

 ただし、設定者であるC社が債権者であるD社を害することを知ってした処分は無効となります(同条2項)ので、たとえば、C社の通常の営業の範囲を超えた処分(在庫の無償処分や著しい安売り等)を行うことはできません。

 また、C社は、正当な理由がある場合を除いて、集合動産(特定された範囲の在庫商品)を補充するなどして、集合動産の担保価値(これら集合動産の一体としての価値)を維持する必要があり、債権者であるD社を害しないと認められる範囲を超えて集合動産が大幅に減少することのないようにしなければなりません(同43条)。

 仮にD社への300万円の債務を弁済できないとなってしまった場合、D社から集合動産譲渡担保権の実行が行われてしまうことになりますが、その方法として、まずは、D社からC社へ集合動産譲渡担保権の実行の通知が行われます(同66条1項)。この通知が届いた時点で存在する集合動産が担保対象として確定・固定化することとなります(同条2項)。担保権設定者である債務者C社は、実行通知後は、固定化されてしまった動産を処分することはできませんが(同条3項)、他方、実行通知後に新たに加わった動産には担保権は及びませんので、処分することができます。

ただし、実行通知後に搬入された動産であっても、固定化されている動産と外形上区別することができる状態で保管する方法により分別して管理されていない動産(例えばタンクやサイロなどに保存される原材料など)については、固定化された動産に属していると推定されてしまいます(同条4項)。このため、実行通知があった場合には、C社として、その時点までの集合動産と、それ以降に搬入された集合動産を外形上区別して保管するよう注意が必要です。

5 まとめ

 譲渡担保法は、これまで明文規定のなかった譲渡担保権・留保所有権といった担保権を明文化するものであり、これらの担保権についての安定性を与えるとともに、融資実務や与信管理、倒産手続に与える影響は非常に大きいものといえます。

 紙面の都合上、今回は主に譲渡担保権の設定時の注意点に絞って解説しましたが、譲渡担保権の設定、実行、倒産時の対応を含めた譲渡担保法全般についてのご相談等がございましたら、お気軽にご相談ください。

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