第84号

内部通報制度の仕組みとポイント

POINT

  1. 内部通報制度は、経営上のリスクを早期に発見・是正し、企業の自浄作用を機能させるためのインフラです。利用しやすい通報窓口の複数設置や、継続的な社内アナウンスなど、制度を形骸化させない取り組みが重要です。
  2. 通報者保護のための秘密保持の徹底などの仕組みが制度への信頼を左右します。
  3. 2026年12月に施行される改正公益通報者保護法を踏まえて、「体制整備・周知義務の強化」、「通報者探索の禁止」、「立証責任の転換」等の要素を反映した内部規程や運用が必要です。

1 はじめに

 内部通報制度は、企業の不祥事を未然に防ぎコンプライアンス経営を推進するための重要なリスク管理手法です。本稿では、改正公益通報者保護法(以下「改正法」といいます。)が2026年12月1日に施行されることを踏まえつつ、ハラスメントの通報・相談への対応を含む内部通報制度の全体の実務的な構築・運用のポイントを解説します。

2 公益通報との関係

⑴ 公益通報とは

 公益通報者保護法は、国民の生命、身体、財産等の保護に関わる法令違反行為について、労働者等が公益のために通報した場合に、解雇等の不利益な取扱いを受けないよう保護する法律です。

 公益通報として保護される対象事実(通報対象事実)は、国民の生命、身体、財産等の保護に関わる法律1に違反する犯罪行為、または最終的に刑罰等につながる行為等に限定されています。

 保護の対象となる「公益通報者」には、正社員だけでなく、契約社員、パート、アルバイト、派遣労働者などの労働者が含まれます。また、退職後1年以内の退職者や、法人の役員も含まれます。さらに、改正法により、フリーランス(特定受託業務従事者)および業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが新たに対象者として追加され、業務委託先を含めた広範な通報者保護が図られることとなりました。

⑵ 公益通報が保護されるための要件

 通報内容が法律で保護される公益通報に該当し、通報者が法的な保護(解雇等の無効、不利益取扱いの禁止等)を受けるためには、通報対象事実が前記の法律違反であることに加え、通報先ごとに定められた以下の要件を充足する必要があります2

役務提供先への通報(内部公益通報、1号通報)
通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると「思料する」こと

行政機関への通報(外部通報、2号通報)
上記の内部への通報の要件に加え、通報対象事実について「真実相当性」(真実であると信ずるに足りる相当の理由)があること

報道機関、消費者団体等への通報(外部通報、3号通報)
上記の真実相当性に加え、一定の事由(役務提供先等に通報すれば不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある、証拠隠滅のおそれがある等)に該当すること

⑶ 公益通報と内部通報の関係

 公益通報者保護法における通報対象事実は、国民の生命、身体、財産の保護に関わる特定の法律に違反する行為に限られています。しかし、実務的には、企業の内部通報の窓口で取り扱う対象は、公益通報に限らず、法令や社内ルールに違反する行為全般を含むことが通常です。企業がコンプライアンス上のリスクを早期に発見・是正するためには、公益通報に該当しない通報であっても、調査等の対応の対象とすることが適切です。

3 体制の整備

⑴ 体制整備義務

 改正法では、常時使用する労働者数が300人超の事業者においては、公益通報に適切に対応するための体制整備と公益通報対応業務従事者(以下「従事者」といいます。)の指定が法的義務(同労働者数が300人以下の事業者においては努力義務)とされています。

⑵ 通報窓口

 通報を受け付ける社内窓口は、内部統制の統括部門・法務・コンプライアンス部門、総務部門、人事部門、監査部門等に設置されることが多いようです。社内の役職員が内部通報を利用しやすくするためには、複数の窓口を設置することが有用です。さらに、社内窓口に加えて、匿名性を確保しやすく社内事情に左右されにくい外部窓口(法律事務所等)を設置することが推奨されます。

⑶ グループ内部通報体制の構築

 子会社や関連会社で企業不祥事が発生し、グループ全体の企業価値を毀損する場合が少なからずあります。グループ全体でのコンプライアンスの取り組みのために、グループ共通の窓口を親会社等に設置する方法も有効です。

⑷ 社内教育と経営トップによるアナウンス

 「内部通報は企業を守るための正当な行為である」とのメッセージを、経営トップ自らが継続的に発信することが制度への信頼を生みます。改正法では、事業者が労働者等に対して通報窓口その他の公益通報対応体制を「周知する義務」が法律上明記されています。

4 通報者保護、適切な調査等

 通報者が最も懸念するのは、自分が通報したことが周囲に知られ、不利益を受けることです。そのため、通報者を特定させる情報の共有は、調査等に必要な最小限の範囲に限定しなければなりません。改正法では、正当な理由なく通報者を特定しようとする「通報者探索(通報者捜し)」自体が禁止されます。

 通報対象事実に関係する役職員を調査・是正業務に関与させない措置を講じ、中立性と公平性を確保します。調査の開始の有無、調査結果、是正措置等について、適正な業務遂行や利害関係人のプライバシー保護に支障のない範囲で、通報者へ通知(フィードバック)を行う必要があります。

5 運用のポイント、実効性向上の施策

 改正法では、公益通報を理由として解雇や懲戒を行った場合、制裁としての刑事罰が新設されました(意思決定に関与した個人には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、事業者には3000万円以下の罰金)。

 また、通報者と事業者との間の民事紛争においても、通報後1年以内の解雇・懲戒は「公益通報を理由としてなされたものと推定」される規定(立証責任の転換)が新設されました。事業者は、日頃から人事評価や指導記録の客観的な証拠を適切に作成し、保存できる体制を整える必要があります。

6 ハラスメントの通報・相談窓口との関係

 パワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)等について、労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法などの法令に基づき、事業者は、一定の措置を講じる義務を負っており、その一環として、各種ハラスメントに関する相談窓口を設置する必要があります。さらに、法改正により、2026年10月以降、カスタマーハラスメント(カスハラ)についての体制整備も企業の義務となります。

 消費者庁の調査によると、調査対象となった企業の約6割が公益通報窓口とハラスメント相談窓口を一本化して運用しています3。窓口を一本化する場合であっても、事案の内容に応じて人事部門や専門の職員と連携するなど、ハラスメントに対応した柔軟かつ適切な運用体制を敷いておく必要があります。

7 まとめ

 内部通報制度は、一度規程を作成して終わりではなく、法改正や社会状況に合わせて仕組みをアップデートし続ける必要があります。特に、改正法を踏まえると、人事評価や懲戒のあり方を含めた総合的なリスク管理体制の見直しが重要です。当事務所では、内部通報規程の策定・改定支援、外部窓口の受任、役職員向けコンプライアンス研修の実施など、実効性のある制度構築に向けた総合的なサポートを行っております。ぜひお気軽にご相談ください。


1 2026年1月現在、通報対象となる法律として506本の法律が指定されています。消費者庁HP「公益通報者保護法において通報の対象となる法律について」参照。

2 役員の場合には、保護されるための要件が異なります。

3 消費者庁「令和5年度民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」33頁。

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