第74号

出向(在籍出向)の基礎知識

POINT

  1. 従業員の育成、雇用調整、企業同士の連携等を図るための方法の1つとして、「出向」(在籍出向)の活用があります。
  2. 出向の活用にあっては、出向契約書や社内規程(出向規程)の内容を整備しておくことが望ましいです。
  3. 出向に関しては、従業員と出向元及び出向先との間の契約関係をどのような内容のものとするか、懲戒処分を出向元と出向先のどちらが行うことができるのかなど、法的な検討が必要です。

1 はじめに

 企業では、グループ企業間での経営・技術指導、従業員の能力開発・キャリア形成、雇用調整、中高年齢者の処遇改善などの目的で、従業員の「出向」(在籍出向)が活用されることがあります。

 出向とは、出向元の企業が自社の従業員に対し、出向元の従業員としての地位を保ったまま、出向先の従業員ないしは役員として、出向先の業務に従事させる人事異動のことをいいます。

 今回のニュースレターでは、出向について押さえておきたい基本的な事項をご説明します。

2 出向命令の根拠、制約

 出向は、出向元と出向先が出向契約を締結して行われますが、出向者となる従業員との関係では労働契約上の根拠が必要となります。法的には、必ずしも従業員の個別の同意が必要というわけではなく、就業規則上の根拠など包括的なものでも足りるとされていますが、出向は、企業内での人事異動である配転と異なり、従業員に与える影響も大きいことから、一定の配慮が求められます。

 具体的には、配転の場合は、就業規則などで根拠が設けられていれば、職種限定や勤務地限定の特約がない限り、企業にその権限が認められます。他方、出向の場合は、出向元との労働契約が維持されるとはいえ、別の企業への人事異動であるため、従業員の労務提供先が変更されることになりますし、また、労働条件やキャリアなどの面でも不利益が生じかねません。そのため、従業員の個別の同意がない場合には、出向に伴って生じ得る賃金、退職金、昇給・昇格、福利厚生、労働環境等に関する不利益の防止措置が出向規程などによって整備されていることが必要です1

 厚生労働省が作成、公表している『在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)』2では出向規程の例が示され、前記のような事項への配慮を行う規定が紹介されています。

 また、労働契約上の根拠に基づいて出向が行われる場合であっても、「必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には」、出向命令は無効となりますので(労働契約法14条)、出向命令にあたっては従業員の労働条件や生活上の不利益も含めた検討が必要です。

3 出向中の労働関係・懲戒処分

(1) 出向中の労働関係

 出向によって、出向者と出向元、出向者と出向先の間にそれぞれ契約関係が生じることになります3

 具体的な内容は、出向元と出向先が締結する出向契約や、出向元が定める出向規程によりますが、出向者は出向先でその指揮命令のもとで就労するので、出向先の勤務管理や服務規律に服することになるなど、就労に関わる権利義務は出向先との間に生じ、解雇権や復帰命令権など、労働契約関係の存否・変更に関わる権利義務は出向元との間に残るのが基本です。

(2) 懲戒処分

 懲戒権に関し、懲戒解雇・諭旨解雇は、労働契約関係を解消させるという性質上、出向元だけが行うことができますが、その他の懲戒処分は、出向先がその権限を持つことが多いものの、出向元・出向先がともに持つとされることもあります。出向者は出向先の業務に従事しますが、出向元との関係でも、労働契約に基づき、出向先の服務規律に従うなどして出向先に労務を提供する義務を負いますので、出向元が出向先での非違行為を対象に懲戒処分を行うこともあり得ます。

 ただ、懲戒処分を行うには就業規則などの労働契約上の根拠が必要です。それゆえ、出向元・出向先は、自社の就業規則で定めた懲戒規定に基づいて処分を行わなければなりません。

 とりわけ、出向者に懲戒解雇・諭旨解雇相当の重大な非違行為が認められた場合、懲戒処分は、出向元が、出向先との出向契約を解消して、出向者を復帰させた上で行うのが通常ですが、出向元の懲戒規定が出向先での非違行為に対して適用可能な定め方になっていなければ(形式面)、有効な懲戒処分と認められないおそれがあります。また、具体的な懲戒処分の選択にあたっては、出向先での非違行為が出向元の企業秩序にどれだけの影響を与えたのか(実質面)も考慮する必要があります。

 実際にこういった形式面、実質面を考慮して出向元が出向者に行った懲戒処分の有効性を否定した裁判例も存在しますので4、注意が必要です。

4 役員としての出向

 出向先の従業員とするケースだけでなく、従業員をグループ企業の役員として出向させることも広く行われています。

 役員の場合、出向先の株主総会によって選任され、出向先との関係は委任契約に基づくものであり、会社法上の責任を課されることにもなるなど、従業員とは立場が異なることになります。出向先では従業員ではないので、従業員だけを対象とする出向先の就業規則の適用はありません。出向者は、出向先との関係では委任契約や会社法に基づいて義務を負いますが、出向元との関係では、労働契約に基づいて、誠実に出向先の役員として業務を行う義務を負います。

 このように、出向中は、出向元との労働契約関係と出向先との委任契約関係が併存することになりますが、性質が全く異なりますので、予め出向者に自覚をさせ、同意を得るのが適切です。

 また、役員ということであれば、出向先の従業員ではないので、出向先は懲戒権を持ちません(委任契約や会社法に基づく責任追及はあり得ます。)。出向元による懲戒処分については、前述と同様です。

5 偽装出向の問題

 過去には、人材派遣会社から多くの労働者を出向として受け入れた事業者が、職業安定法に違反するとして、摘発された例があります。この事例では、実態は労働者派遣であるにも関わらず、労働者派遣法に基づき派遣先に課せられる義務を回避する狙いがあったとみられ、こういったケースは偽装出向といわれることもあります。

 出向は、職業安定法に定める「労働者供給」5に含まれ、原則として、事業に至らない範囲では許容されますが、これを事業として行うこと、また、これを事業として行う者から労働者を受け入れて自らの指揮命令の下に労働させることは罰則をもって禁止されています(同法44条、64条10号)。

  このように、出向が認められるのは労働者供給事業に該当しない範囲においてですが、出向を繰り返し行う場合、事業、すなわち、「業として行う」というべきか否かの判断が重要となります。行政解釈では、①労働者を離職させるのではなく、関係会社で雇用機会を確保する、②経営指導、技術指導を実施する、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う、といった目的があるものは、基本的には「業として行う」ものではないとされています6

6 おわりに

 今回は出向について基本的な事項をご説明いたしました。人事管理の一手段として、様々な目的で活用することができる仕組みですが、判断が難しいケースもありますので、必要に応じて専門家にご相談いただければと思います。


2https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

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