第75号
下請法の運用にかかる近年の動向
POINT
- 近年、公正取引委員会は、下請法の運用基準(ガイドライン)を相次いで改正するなど、下請法の運用を活発化しています。
- 下請事業者に対し、労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇分を適切に価格転嫁せず、また協議することなく取引価格を据え置いたりすることは、下請法の違反行為である「買いたたき」に該当するおそれがあります。
- 令和6年11月1日から、下請代金の支払手段として手形を振り出す場合に、手形の交付から満期までの期間が60日を超える手形によることは、行政指導の対象となります。
1 近年の下請法の運用状況
公正取引委員会による下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」といいます。)の違反行為に対する指導件数は、令和2年度まで増加の一途をたどり、令和4年度には過去最多の8665件の指導が行なわれています1。
令和4年1月と令和6年5月には、労務費、原材料費、エネルギーコストが上昇している経済状況をふまえて、「買いたたき」(下請法4条1項5号)に関して下請法に関する運用基準2(以下、「ガイドライン」といいます。)の改正が行なわれました。
また、令和6年11月1日からは、下請代金の支払手段として手形を振り出す場合に、手形の交付から満期までの期間が60日を超える手形によることは、行政指導の対象となる運用に変更されます。
このように、特にここ数年、公正取引委員会は下請法にかかる取り組みを積極化させており、下請法が適用される取引に関わる事業者においては、その動向に注目する必要があります。
本稿では、公正取引委員会の最近の大きな動きとして、「買いたたき」に関するガイドラインの改正と、手形等の期間にかかる運用変更について解説します。

【図】下請法違反行為に対する指導件数の推移
(脚注1・令和6年6月5日公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」より抜粋)
2 「買いたたき」に関するガイドラインの改正
下請法4条1項5号では,親事業者が「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を、「買いたたき」として禁止しています。
ガイドラインにおいては、令和4年1月の改正前から、「買いたたき」に該当するか否かは、①下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法や、②差別的であるかどうか等の決定内容、③通常の対価との乖離状況、④原材料等の価格動向などをふまえて総合的に判断されることが示されていました。
そして、令和4年1月に、公正取引委員会はガイドラインを改正し、例えば、次のような方法で下請代金を定めることも「買いたたき」に該当するおそれがあることを定めました。
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
令和4年1月の改正前は、「原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため、下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来どおりに単価を据え置くこと」と規定していましたが、この改正により、下請事業者が単価引上げを求めたか否かに関わらず、労務費・原材料費・エネルギーコスト等の上昇分を適切に取引価格に反映しない取引や、価格交渉の場において協議することなく取引価格を据え置くことも、「買いたたき」に該当しうることが明確化されました。
さらに、公正取引委員会は、令和5年11月29日に、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」3を公表し、物価上昇に伴い労務費を取引価格に適切に転嫁することを、発注者・受注者双方に促しています。
その上、令和6年5月27日には、上記指針等をふまえて、「買いたたき」の該当性がより明確になるよう、さらにガイドラインの改正が行なわれました。具体的には、下請法4条1項5号に定める「通常支払われる対価」を把握することが困難なときは、次のアもしくはイの額を同号の「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱うことが明記されました。
ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額
イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額
上記イは、要するに、受注者側のコスト増が客観的に明らかであるにもかかわらず、下請代金を据え置くことは「買いたたき」に該当する可能性があることを明記したものであり、コスト上昇に伴い労務費等を取引価格に適切に転嫁することを推進する政府の方針に沿った改正といえます。
3 下請代金の支払手段として手形が利用される場合等の運用の変更
下請法4条2項2号は、親事業者が下請事業者に請負代金を支払うにあたり、「下請代金の支払期日までに一般の金融機関により割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること」によって、下請事業者の利益を不当に害してはならないと定められています。
この点、従前の運用では、手形の交付日から手形の満期までの期間(サイト)が120日(繊維業は90日)を超える場合は、「割引困難な手形」として行政指導の対象とされていました。そのため、下請事業者は、手形割引を受けない限り、納品から最大半年近く、下請代金を現金化することができず、資金繰りの負担となっていました。
このような問題をふまえ、令和6年11月1日より、中小企業庁及び公正取引委員会の運用が変更され、親事業者が下請代金の支払手段として、手形期間が60日を超える手形を交付した場合、「割引困難な手形」に該当するおそれがあるとして、行政指導の対象となりますので、注意が必要です。
また、同時に、下請代金の支払手段に関する公正取引委員会の通達である「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」4と「電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」5も改正され、一括決済方式、電子記録債権による下請代金支払も、サイトが60日を超える場合は行政指導の対象となります6。
4 まとめ
政府は、近年の物価上昇をふまえて、中小企業等が賃上げ原資を確保できるよう、受注側のコスト上昇分を発注者側に適切に価格転嫁できるための取り組みを強化する姿勢を打ち出しています。「買いたたき」にかかるガイドラインの改正は、この方針に沿うものといえます。
また、令和6年11月から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス保護法)が施行される等、公正取引委員会は、立場の弱い事業者を保護する取り組みを強化しています。近年の勧告や指導件数が高い水準で推移している運用状況からしても、今後も下請法の運用が活発化していくものと考えられます。
そのため、下請法が適用される取引に関わる事業者は、今後、特に下請法の運用状況を注視していく必要があります。
1 令和6年6月5日公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jun/240605.html)
2 https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/unyou.html
3 https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka/romuhitenka-1.pdf
4 https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/ikkatusisin.html
5 https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/denshishidou.html
6 https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240430002/20240430002-a.pdf