第83号

区分所有法改正の概要と実務対応 ~建物と居住者の「二つの老い」への対処と管理・再生の円滑化~

POINT

  1. 老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るために、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)が改正され、令和8年4月1日から施行されます。
  2. 改正法では、管理の円滑化・再生の円滑化等の観点から、新たな仕組みの導入や、 集会の決議の要件の改正、制度の創設などが行われています。
  3. マンション新築時から適切な管理や修繕が行われるよう、マンションの管理の適正化の推進に関する法律も改正されました。

1 改正の背景と課題(「二つの老い」の深刻化)

 日本の分譲マンションは、ストック総数が約700万戸を超え、国民の1割以上が居住する重要な居住形態となっていますが、多くのマンションが「建物」 と「居住者」の「二つの老い」 が進行するという深刻な課題に直面しています1

 まず、「建物」の高経年化です。国土交通省の推計によれば、築40年を超えるマンションは現在148.7万戸存在しますが、今後20年で482.9万戸(約3.3倍)に急増すると見込まれています2。建物の老朽化は、修繕・改修の必要性を高めるだけでなく、建物の安全性にも関わる重大な問題です。

 次に、「居住者」の高齢化です。マンションによっては、世帯主が70歳以上の割合が5割を超えるケースも珍しくありません。居住者の高齢化は、管理組合活動への参加意欲の低下を招くだけでなく、相続の発生等による所有者不明化や、非居住化(賃貸化など)を進行させます。

 これら「二つの老い」は、集会への無関心や所在等不明の区分所有者(以下 「所在等不明区分所有者」といいます。)の増加を招き、管理や再生に必要な決議の成立を著しく困難にしています。結果として、適切な維持管理が行われない管理不全に陥るマンションが増加しており、社会問題化しています。

 こうした喫緊の課題に対応し、マンションの管理・再生の円滑化等を図ることを目的として、今回、区分所有法が改正されました(以下、改正された区分所有法を「改正法」といいます。)。

2 管理の円滑化の観点からの改正内容

 改正法では、マンションの日常的な管理を円滑に進めるため、集会決議に関するルールが大きく見直されました。

⑴ 所在等不明区分所有者への対応 (決議母数からの除外)

 従来、集会に参加せず、議決権も行使しない所在等不明区分所有者は、事実上の反対票として扱われ、決議成立の大きな障害となっていました。

 改正法では、一般区分所有者(所在等不明区分所有者以外の区分所有者) 又は管理者が裁判所に申し立て、裁判所が公告等の手続を経ることで 「所在等不明区分所有者の除外決定」 を行うことができる制度が創設されました(改正法38条の2第1項)。この決定がなされると、 所在等不明区分所有者は、集会における決議の母数 (頭数及び議決権) から除外され、招集通知の送付すら不要になりました。重要なのは、この決定の効力が特定の議案だけでなく、その後の集会決議全般に及ぶ点です。これにより、これまで決議成立を阻んでいた壁がなくなり、機動的な意思決定が可能になります。

⑵ 集会決議の円滑化 (出席者多数決制度の導入)

 区分所有者の関心の低下等により集会への出席率が低いマンションにおいても必要な意思決定を行えるよう、決議の母数を全区分所有者から出席者に変更できる制度 (出席者多数決) が新設されました。

 普通決議(議案の例:役員の選任・解任、共用部分の管理)については、従来は全区分所有者の過半数の賛成が必要でしたが、出席者の過半数の賛成での決議が可能となります。 また、 特別決議(議案の例 : 規約の設定・変更・廃止、共用部分の変更) について、従来は全区分所有者の4分の3以上(特別決議)の賛成が必要でしたが、これも要件を満たせば出席者の多数決で決議可能となります。

 ただし、特別決議が必要な事項 (建替えを除く)については、区分所有者の過半数かつ議決権の過半数を有する者が出席するという定足数が設けられています。

⑶ 共用部分の変更 (重大変更)の要件緩和

 外壁の補修や設備の更新など、共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴う重大変更の決議要件は、従来、区分所有者及び議決権の各4分の3以上という高いハードルがありました。

 改正法では、原則的な多数決割合は現行法を維持しつつ、特定の客観的な事由がある場合に限り、この要件が区分所有者及び議決権の各3分の2以上に緩和されました(改正法17条5項)。

 対象となる事由は、①共用部分の設置・保存の瑕疵により権利侵害のおそれがある場合 (例: 倒壊のおそれがある立体駐車場を取り壊す場合)、②バリアフリー化のために必要な場合 (例:高齢者や障害者等のためのスロープ設置やエレベーター改修などの場合)です。

 この改正により、特に高経年マンションで喫緊の課題となる必須の修繕・改修工事が、より実施しやすくなるという実務的なメリットが期待されます。

⑷ 管理不全専有部分(共用部分)・所有者不明専有部分への対応

 所有者の所在が不明の専有部分や、ゴミ屋敷化するなど管理が不適切な状態にある専有部分に対応するため、裁判所が関与する新たな財産管理制度が導入されました。利害関係人(管理者など) の請求により、裁判所が管理人を選任し、専有部分の売却も含めた適切な管理・処分を行えるようになります。

3 再生の円滑化の観点からの改正内容

 老朽化が進んだマンションの建替え(再生)を円滑化するための改正も行われました。

⑴ 建替え決議要件の緩和

 建替え決議は、従来、区分所有者及び議決権の各5分の4以上という極めて高い賛成が必要でした。改正法では、この原則は維持しつつも、特定の客観的要件を満たす場合には、決議要件が区分所有者及び議決権の各4分の3以上に緩和されます。上記客観的要件は、マンションの建替え等の円滑化に関する法に定められている特定要除却認定基準や要除却認定基準を援用したもので、以下のいずれかに該当する必要があります。

 ①耐震性不足:耐震基準に適合していない場合

 ②火災安全性不足:火災安全基準に適合していない場合

 ③外壁剥落等の危険:外壁等が剥離・落下し、周辺に危害を生ずるおそれがある場合

 ④衛生上の有害性:給排水管の劣化等により、著しく衛生上有害となるおそれがある場合

 ⑤バリアフリー基準不適合:バリアフリー基準に適合していない場合

 留意点として、単なる経年劣化や老朽化だけでは要件は緩和されず、専門家による診断等に基づき、具体的な物理的・機能的劣化が認められる場合に適用されることになります。

⑵ 建替え決議後の賃貸借の終了

 建替えを進める上で大きな障害の一つが、専有部分を賃借している居住者の退去問題でした。改正法では、この問題に対応する新たな制度が創設されました。 建替え決議が成立した場合、建替えに参加する区分所有者等は、賃借人に対して賃貸借契約の終了を請求できるようになります。この請求から6ヶ月が経過すると、賃貸借契約は終了します。ただし、これは一方的な立ち退きを認めるものではありません。賃借人の居住の安定に配慮し、移転費用などを含む「正当な補償」の提供が、建物の明渡しを求めるための条件とされています。これにより、建替えの円滑化と賃借人の権利保護のバランスが図られています。

 改正法により、これまで借地借家法上の正当事由がなければ困難であった賃貸借契約の終了が、区分所有建物においては「建替え決議」 という事実をもって、補償を前提に可能となりました。一方で、一般的な賃貸ビル等の非区分所有建物にはこのような規定は存在しないため、 区分所有建物と非区分所有建物との間で、建替え時における賃借人の権利に大きな差が生じることになります。

⑶ 再生手法の多様化

 今回の改正では、建替え(再建)以外の再生手法も法的に整備されました。 具体的には、①建物と敷地の一括売却、②建物を取り壊した上での敷地売却、③建物の取壊しを可能とする制度が創設されました。これにより、建替えが経済的に困難な場合や、所有者の多くが再建を望まない場合に、区分所有関係そのものを解消し、敷地を売却して金銭を分配するという出口戦略が明確に示されました。これは、マンションの終活ともいえる選択肢であり、 再生手法の多様化に大きく寄与するものです。

4 マンション管理法等の改正

 今回の法改正は区分所有法だけでなく、関連する法律にも及び、マンションの管理の適正化の推進に関する法律も改正されました。

 まず、マンション分譲事業者(デベロッパー)が、新築時に長期修繕計画を含む管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ制度が導入されました。これにより、初期段階からの適切な管理体制の構築が促されることになります。

 また、管理会社等が管理者となる「管理者管理方式 (第三者管理)」 において、利益相反取引の可能性がある場合には、管理組合に対して事前に十分な説明を行う義務が課され、透明性の確保が図られることになります。

5 おわりに

 今回の改正は、管理組合の運営上、大きな影響があります。特に、所在等不明区分所有者の除外や出席者多数決は、多くの管理組合で早急に検討すべき事項です。これらを活用するためには、管理規約の変更(定足数の設定や出席者多数決の導入規定など)が必要となる場合があります。再生に関しては、要件緩和により、これまで諦めていた建替え計画が再始動する可能性があります。

 当事務所では、改正法に対応した管理規約の改定支援、所在等不明区分所有者対応、建替え・敷地売却の際の法的助言等、幅広くサポートを行っております。ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。


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